モスクワ安全対策情報 (2015年10月から12月まで)

  1. 治安・社会情勢(一般治安情勢,政治的安定度,反政府勢力の動き,対日感情の変化)
    1. 一般治安情勢
    2. ロシア内務省の発表によれば,2015年(1月から9月まで)の犯罪件数は全体で6.9%増加(前年同期比)しており,特にテロ的性質をはらんだ犯罪や過激主義による犯罪,外国人を対象とした犯罪等が増加している。ルーブルの下落により物価が上昇し,市民生活にも影響が出てきている。今後景気後退による一般犯罪の増加や愛国主義の高揚による排外的機運の高まり等に注意していく必要がある。

    3. 政治的安定度
    4. 一般国民による反体制抗議運動は,集会法の罰則強化や「外国エージェント」法採択等により鎮静化しつつあるが,社会の不満は依然として解決されるには至っていない。2013年10月,コーカサス系住民によるスラブ系男性殺人事件に端を発し,民族間の緊張が高まりモスクワ南部で騒乱が発生した。

      2015年2月27日深夜に元第一副首相でロシア共和党ー国民自由党の共同党首であったネムツォフ氏が殺害される事件が発生し,3月1日に予定されていた反体制派による集会がネムツォフ氏の追悼集会に変更となった他,5月には反体制派による無許可集会が行われ,参加者5名が当局に身柄を拘束され,9月20日には,反体制派によるデモ行進が行われた。また,石油価格の下落やルーブル安が長期化し,経済情勢の悪化や新たな税徴収制度の導入の影響と思われる抗議活動が行われており,このような動きが拡大していくかどうか注視していく必要がある。

    5. 反政府勢力の動き
    6. 不安定な北コーカサス情勢を背景にしたテロが引き続き発生している。2014年10月5日にチェチェン共和国グロズヌイ市内の劇場にて自爆テロ事件が発生した他,同年12月4日には同市で武装勢力が警察詰め所を襲撃し,出版会館,学校等に立てこもるテロ襲撃事件が発生し,多数の死傷者がでた。ロシア国内でテロ事件を起こした北コーカサス武装勢力について昨年4月反テロ委員会は,リーダーであったアリアスハブ・ケベコフが死亡したことを発表した。また,その後新たにリーダーに指名されたマゴメド・スレイマノフやダゲスタン系武装勢力の首領等が殺害されたと報じられている。

      一方,イラクやシリア等で活動しているテロ組織ISILには多数のロシア人等が参加していると言われており,これらの帰還者によるロシア国内でのテロの懸念が生じている。ISILは北コーカサス地方をISILの行政地区とすると一方的に宣言し,2015年9月末,ロシアがシリア北部への空爆を開始した後,ISIL等はロシアを攻撃対象とする旨の声明を発出した他,10月31日にエジプト・シナイ半島でロシア航空機が墜落した事案についてもISIL系の組織が犯行声明を発出し,さらに11月13日にもロシアを標的とする声明を発出している。

      今後,北コーカサスの武装勢力がプレゼンスを示すことを狙ったテロや,シリア等での戦闘経験を有する帰還者やISILに影響を受けたものによるテロが発生する懸念もあることから,引き続き警戒が必要である。

    7. 対日感情
    8. ロシア国民の対日感情は一般的には良好であるが,過去に北方領土問題などで民族主義者や各種団体が当館に対する抗議を行ったこともあり,複雑な側面がある。今後,同様の抗議活動が当館や日本関連団体・企業等に対して行われる懸念があり,警戒が必要である。また,昨年9月1日,当館付近でイルカ漁に反対する団体の構成員4名がプラカードを掲げたり,通行人に対してパンフレットを配布する等の活動を行った。

  2. 一般犯罪・凶悪犯罪の傾向
    1. ロシア内務省は,2015年(1月~9月)のロシア連邦内の犯罪情勢について次のとおり発表した。(以下の%は前年同期比)
    2. ア 全犯罪の登録件数は,175万400件(+6.9%)であり,この内89.5%が摘発された。

      イ テロ的性質をはらんだ犯罪登録数(1,144件・+47.8%),過激主義による犯罪登録数(1,028件・+30.3%)が著しい増加傾向を示した。また,外国人及び無国籍者を対象とした犯罪件数も1万2,200件となり,20.6%増加した。

      ウ 犯罪による死亡者数は,24,600人 (-5.5%増)であった。公共施設における犯罪件数は631,400件(+10.2%)であった。

    3. 【邦人一般犯罪被害】
    4. ●10月18日,グム百貨店からクレムリン付近を徒歩にて散策中に,博物館でたすき掛けして背中側にあったバックの中に入れていた財布が無くなっていた。

      ●11月17日,在留邦人が地下鉄赤線のアホトニリャド駅で乗車した際,背後にいたと思われる若い男二人組に背中側にあったバックの中に入っていた財布を盗まれた。

      ●12月18日,在留邦人が,飲食店で食事中に,隣の席に置いていたバックを何者かに盗まれた。翌日,店の防犯カメラで確認してもらったところ,男と女がバックを持って出ていくところが確認された。

    5. 【外国人一般犯罪被害】
    6. ●11月6日17時55分,中国人2名がモスクワ市マリインスキーパルク通りに所在するアパートの玄関において,二人組の強盗に暴行され,鞄を奪われた。同月12日,事件現場近くにおいて,無職の中央アジア出身の男(20才)が容疑者として拘束された。

      ●12月1日,ベトナム国籍の男性が,モスクワ州エレクトロゴルスクにおいて身元不明の5人組に襲われ,120万ルーブルを奪われた。

      ●12月28日,モスクワ市デニサ通りに所在するアパートの出入口付近において,40才のキルギス人男性が3人組から殴打され,持っていた700万ルーブルを奪われた。

      ●モスクワ市ストレリビシェンスキー横町において,パキスタン国籍の男性(54歳)が現金30万ルーブル入りの鞄を奪われる強盗被害に遭った。

    7. その他参考となる犯罪被害
    8. ●10月2日15時頃,モスクワ市ドゥビンスカヤ通りにおいて,57歳の女性が乗った状態で一時停車していた自動車の前席右側の窓ガラスが何者かに割られ,車内から金品など計260万ルーブル相当を奪われた。

      ●10月2日昼,モスクワ市地下鉄アビアマトールナヤ駅において,乗客2人の間で喧嘩となり,一方が相手の頭へ向けて低致死性拳銃を発砲し,撃たれた相手は病院へ搬送され,犯人は逮捕された。

      ●10月28日夕方,モスクワ市イズマイロフ公園において,44才の女性が何者かに性的な暴行を受けた上,持っていた携帯電話や金品を奪われた。捜査の結果,前科のある40才のモスクワ市民が犯人として逮捕された。

      ●10月28日22時頃,モスクワ市ユージナヤ・レニンツェフ通りにおいて,55才の女性企業家が車を停車させ,自宅へ向かおうとしたところで強盗被害に遭った。複数名からなる犯人は,被害者を銃器で脅し,現金21万5千ルーブルが入ったビニール製の袋を奪って逃走した。翌29日,警察による不法移民摘発作戦「移民2015」に従事していた警察官が犯人を逮捕した。犯人らはモスクワ市内に無登録で滞在していた20才から27才の中央アジア出身者と判明した。この者らは本件以外にも3件の強盗事件に関与しているとみられている。

      ●11月4日20時頃,モスクワ市ナロードナヤ・オポルチェニヤ通りにおいて,19才の男子大学生が何者かに刃物で脅され,持っていた携帯電話2台を奪われた。同日22時頃,同市マルシャル・バシリエフスカヤ通りにおいて,23才のカフカス地方出身者が犯人として逮捕された。

      ●11月5日,モスクワ市プロフサユーズナヤ通りを歩いていた夫婦が,3人組の強盗から暴行を受け,携帯電話や私物が入っていた鞄をひったくられた。同月9日,同通りにおいて,20才から33才の3人のモスクワ市に住む男が犯人として拘束された。

      ●11月6日午前3時頃,モスクワ市レニンスキー大通りにおいて,何者かがガソリンを使って外国車2台に火をつけるという事件が発生した。同月13日,この事件の容疑者として,警察は,モスクワ市内の銀行で監査の仕事をしている48歳の男を逮捕した。

      ●11月6日レニンスキー大通り72番地付近において,覆面をした3人組が,車両内に男性が乗っていたにも拘わらず窓ガラスを打ち割り,男性に向け低殺傷性の銃を発砲した上,10万ユーロを超える大金が入っていた鞄を奪って逃走した。

      ●11月7日午前3時頃,モスクワ市マーラヤ・フィリョーフスカヤ通りに所在するナイトクラブ近くにおいて,若者グループ(5名と2名のグループ)同士の喧嘩が発生した。この結果,モスクワ州出身の19才男が腹を刃物で刺されて死亡した他,19才のモスクワ市民が脳しんとうを起こして病院へ搬送された。

      ●11月9日午前2時頃,警察は,モスクワ市ルビャンカ地区にある連邦保安庁の1番出入口の扉に火をつけた画家兼活動家と2人のジャーナリストの身柄を拘束した。拘束された活動家は,同日未明,ガソリンとライターを使って連邦保安庁の1番出入口の扉に放火した。

      ●11月10日13時頃,モスクワ大学構内において,同大学機械数学学部に所属する24歳の大学院生が,62歳の女性警備員の頭部や体を金属棒で何度も激しく打ち据えるという事件が発生した。重傷を負った被害者の警備員の女性は病院へ運ばれた。加害者の学生は事件現場において駆けつけた警察官により逮捕された。

      ●11月12日15時頃,モスクワ市レーニンスキー大通りにおいて,覆面をした二人組の強盗が,被害者男性を銃器で脅した上,バットで数回殴りつけ,鞄を奪って逃走した。この鞄には現金500万ルーブルが入っていた。

      ●11月16日,連邦麻薬流通監督庁は2人の違法薬物を扱うブローカーを逮捕したと発表した。逮捕された1人は,国際犯罪グループのメンバーとみられるロシア国籍の男であり,南アメリカからの郵便物を受け取った際に逮捕された。その郵便物には,ボクシングのトレーニング用のミットの中に1.5キログラムのコカインが隠されていた。もう1人のブローカーは,ニジニ・ノヴゴロドにおいて逮捕された。男は,オランダからドイツ経由で違法薬物を供給するルートを作っていた。この男は,DJ機器の中にコカイン10グラム以上,エクスタシー500錠とハシシ500グラムを隠していた。

      ●11月18日午前5時頃,モスクワ市サドーバヤ・チェルノグラスカヤ通りにおいて,女性2人がタクシーに乗車していたところ,運転手から鞄をひったくられ車外へ押し出された。このタクシーはそのまま走り去った。同日13時頃,ゴリュビンスカヤ通りにおいて,容疑者のカフカス地方出身者(53才)が拘束された。

      ●11月24日20時頃,モスクワ市ミクルホ・マクラヤ通りに所在するアパートの一室に強盗が入った。玄関の呼び鈴がなったため,住人が玄関ドアを開けたところ,4人組の強盗が押し入り,住人を縛り付け,銃器で脅して,2万2千ユーロ,30万ルーブルや貴金属など総額240万ルーブル相当を奪って逃げた。

      ●12月3日午前1時頃,モスクワ市フルンゼンスカヤ河岸通りにおいて,女性が刃物を持った強盗に襲われ,鞄を奪われた。同日17時頃,チェルタノフスカヤ通りにおいて,前科がある25才無職のモスクワ市に住む男が容疑者として拘束された。同容疑者は,少なくとも2件の類似事件に関与しているとみられている。

      ●12月12日,モスクワ市クリラーツコエ地区に住む28才男性が,帰宅のためにタクシーを利用したところ,運転手や乗り合わせた他の乗客からビールを勧められ,これを飲んだところ意識を失い,意識を取り戻した時には,リュックサックやタブレット端末,腕時計,指輪などが無くなっていた。捜査の結果,50才と42才のカフカス地方出身者が容疑者として拘束された。同容疑者の自動車内からは,意識を混濁させる薬剤が入れられたビンが押収された。

      ●12月14日夜,モスクワ市内カフェにおいて,カフェ所有者とパートナーである4人の男と食事をしていたところ,外からやってきた複数人の男らに呼び出され,外に出た後,口論となり銃撃戦となった。この事件の結果,3人が殺人容疑により拘束された。捜査機関によると,本件事件の原因は,カフェの所有者と店員との間での金銭問題であった。

      ●12月20日,モスクワ市東北部のミーラ大通り112番地において,33歳男性の会社経営者に3人組がスタンガンでけがを負わせ,現金140万ルーブル,2千ユーロ及び1万ドルが入ったカバンと身分証明書を奪った。

      ●12月23日18時頃,モスクワ市レニンスキー大通りにある宝石店に覆面をした男が押し入り,店員に対して身体的な危害を加えると脅したうえ,ショーウィンドウの一部を破壊し,宝石類を奪って逃走した。

      ●12月27日,モスクワ市レニンスキー大通りにおいて,男性が銃器を持った強盗に脅されて150万ルーブルを奪われた。

      ●12月27日22時頃,モスクワ市チェルニャホフスカヤ通りのアパートの周辺において,何者かが,非番であったモスクワ内務総局取調官の顔に何らかの液体をかけ,やけどを負わせた。

  3. テロ・爆弾事件発生状況
    1. 邦人被害なし。
    2. テロ・爆弾事件(未遂)発生事例
    3. ●10月12日,モスクワ市内のアパートで公共交通機関に対するテロを企図していた者たちが逮捕された。逮捕されたのは,シリアのイスラム国キャンプで訓練を受けていた者6~11人でその詳細は不明。連邦保安庁によると,被疑者等はストレビシシェンスキー通りのアパート内にいるところを急襲され拘束されたものであり,アンモニアを主な原料とした爆発物5キログラムが発見され,無害化された。

      ●10月14日午前7時頃,モスクワ市スビャタアジョルスカヤ通りに停車していた自動車に仕掛けられた爆発物が爆発した。同通りに停車した自動車「ボルボ」に所有者が乗り込んでエンジンをかけたところ,爆発音がした。通報により駆けつけた警察官が確認したところ,後輪部分でてき弾が爆発していた。また,周辺を検査したところ,近くに停車してあった自動車にも爆発物が仕掛けられていたことが確認された。

      ●10月19日,モスクワ市において,国際テロ組織「イスラム解放党(ヒズブト・タフリル・アリ・イスラミ)」のメンバーが拘束されたと報道された。連邦保安庁及びロシア内務省がモスクワ市内で行った合同作戦の結果,97名が内務機関に連行され,過激主義集団の指導者を含む20名の「イスラム解放党」のメンバーが拘束された。イスラム解放党指導部は,中央アジア出身者により構成されており,同組織の活動には複数のロシア国民が加わっていた。なお,本件の他に,10月19日,モスクワ市内においては,イスラム解放党のメンバー2名が拘束されていた。この2名は,普遍的なイスラム化思想及びロシア領内におけるイスラム国家建設の理念の普及に従事するとともに,同テロ組織へのロシア国民の勧誘を行っていた。

      ●12月7日夜,モスクワ市ポクロフカ通り19番地付近にあるバス停に何者かが爆発物を投げ込むという事件が発生した。この事件において5人が負傷した。事件後,当局の捜査の結果,バス停に投げ込まれた爆発物は,F1型手榴弾とみられている(本年1月容疑者をドモジェドボ空港で逮捕された)。

      ●12月9日,連邦保安庁と警察の共同捜査の結果,モスクワ市北西部に一時滞在しているダゲスタン出身の19歳の男の住居から大量の武器類が発見された。この捜査において,自動小銃(カラシニコフ),消音装置付きのけん銃(スコーピオン),消音装置付きのライフル銃,ピストル(グロク,TT,PM),外国製のリボルバー銃,猟銃,武器の部品,火薬4キロ以上,F1型手榴弾,消音装置5点及び様々な口径の銃弾500点以上が発見された。
      (注:なお,爆発物を仕掛けたとする脅迫電話が,駅(クルスキー鉄道駅,カザン鉄道駅,キエフスキー鉄道駅,ヤロスラフ鉄道駅,地下鉄スモレンスク駅,テアトルナヤ駅),ショッピングモール(トロイカ),TV塔,カフェ,銀行,文化省施設,ホテル(コスモス),学校等で相次いでおり,避難措置や検索が行われている。)

  4. 誘拐・脅迫事件発生状況
    1. 邦人事案なし
    2. その他
    3. ●12月12日,モスクワ市イズマイロフスキー・バールに所在するカフェで被害者2名が席に座っていたところ,3人組の男らが近寄り,建物から出るように申し出た。被害者2名が建物から出たところ,この3人組に無理矢理車へ押し込められた。被害者の内1名が携帯電話のショートメッセージで親類へ状況を伝え,この親類が警察へ通報した。犯人らは被害者に暴力を加えた上,さらに暴力を加えると脅し,解放のために2万ルーブルを支払うよう要求していた。翌13日,地下鉄パルチザンスカヤ駅付近において,身代金受渡しの瞬間に犯人全員が拘束され,犯人の車両に押し込められていた被害者2名も解放された。犯人は23才から25才の中央アジア出身者であり,全員無職であった。

  5. 日本企業の安全に関わる諸問題
    1. 日本企業に対するものではないが,時折,当館に対して領土問題に関する抗議活動が行われることがある。領土問題については,日系企業や団体,在留邦人,邦人旅行者であっても言動等に注意が必要である。
    2. 近年,ロシアでは外国人管理が厳格化されており,軽微な交通違反等であっても複数回違反した場合,入国禁止処分を受けることもあるので,法令違反には注意が必要である。また,不法滞在の処罰も厳格化しており,うっかり気づかず数日間査証が切れても不法滞在として裁判を受ける可能性があるので,日頃から査証の有効期限のチェックが必要となっている。  

     

    以上