モスクワ安全対策情報 (2015年7月から9月まで)

  1. 治安・社会情勢(一般治安情勢,政治的安定度,反政府勢力の動き,対日感情の変化)
    1. 一般治安情勢
    2. ロシア内務省の発表によれば,2015年(1月から9月まで)の犯罪件数は全体で6.9%増加(前年同期比)しており,特にテロ的性質をはらんだ犯罪や過激主義による犯罪,外国人を対象とした犯罪等が増加している。ルーブルの下落により物価が上昇し,市民生活にも影響が出てきている。今後景気後退による一般犯罪の増加や愛国主義の高揚による排外的機運の高まり等に注意していく必要がある。

    3. 政治的安定度
    4. 一般国民による反体制抗議運動は,集会法の罰則強化や「外国エージェント」法採択等により鎮静化しつつあるが,社会の不満は依然として解決されるには至っていない。2013年10月,コーカサス系住民によるスラブ系男性殺人事件に端を発し,民族間の緊張が高まりモスクワ南部で騒乱が発生した。

      2015年2月27日深夜に元第一副首相でロシア共和党ー国民自由党の共同党首であったネムツォフ氏が殺害される事件が発生し,3月1日に予定されていた反体制派による集会がネムツォフ氏の追悼集会に変更となった他,5月には反体制派による無許可集会が行われ,参加者5名が当局に身柄を拘束された。また,9月20日には,反体制派によるデモ行進が行われた。

    5. 反政府勢力の動き
    6. 不安定な北コーカサス情勢を背景にしたテロが引き続き発生している。昨年10月5日にチェチェン共和国グロズヌイ市内の劇場にて自爆テロ事件が発生した他,同年12月4日には同市で武装勢力が警察詰め所を襲撃し,出版会館,学校等に立てこもるテロ襲撃事件が発生し,多数の死傷者がでた。ロシア国内でテロ事件を起こした北コーカサス武装勢力について本年4月反テロ委員会は,リーダーであったアリアスハブ・ケベコフが死亡したことを発表した。また,その後新たにリーダーに指名されたマゴメド・スレイマノフやダゲスタン系武装勢力の首領等が殺害されたと報じられている。

      イラクやシリア等で活動しているテロ組織ISILには多数のロシア人等が参加しているといわれており,これらの帰還者によるロシア国内でのテロの懸念が生じている。

      第3四半期ではないが,10月3日にISILに関与していた3人が特別作戦で殺害され,更に10月10日にはISILで訓練を受けたとされる者を含む集団がモスクワ内で公共交通機関へのテロを計画した容疑で逮捕されている。一方,10月13日にISILはシリアへの空爆を続けるロシアを攻撃し打倒するとの音声声明を発表している。

      また,ISILは北コーカサス地方をISILの行政地区とすると一方的に宣言している。

      今後,北コーカサスの武装勢力がプレゼンスを示すことを狙ったテロや,シリア等での戦闘経験を有する帰還者によるテロが発生する懸念もあることから,引き続き警戒が必要である。

    7. 対日感情
    8. ロシア国民の対日感情は一般的には良好であるが,過去に北方領土問題などで民族主義者や各種団体が当館に抗議を行ったこともあり,複雑な側面がある。今後,同様の抗議活動が当館や日本関連団体・企業等に対して行われる懸念があり,警戒が必要である。

      また,9月1日,当館付近でイルカ漁に反対する団体の構成員4名がプラカードを掲げたり,通行人に対してパンフレットを配布する等の活動を行った。

  2. 一般犯罪・凶悪犯罪の傾向
    1. ロシア内務省は,2015年(1月~9月)のロシア連邦内の犯罪情勢について次のとおり発表した。(以下の%は前年同期比)
    2. (ア) 全犯罪の登録件数は,175万400件(+6.9%)であり,この内89.5%が摘発された。

      (イ) テロ的性質をはらんだ犯罪登録数(1,144件・+47.8%),過激主義による犯罪登録数(1,028件・+30.3%)が著しい増加傾向を示した。また,外国人及び無国籍者を対象とした犯罪件数も1万2,200件となり,20.6%増加した。

      (ウ) 犯罪による死亡者数は,24,600人 (+5.5%)であった。公共施設における犯罪件数は631,400件(+10.2%)であった。

    3. 【邦人一般犯罪被害】
    4. 最近,クレムリン周辺でスリの被害に遭う邦人が急増しているので注意が必要となっている。手口は,背中側に掛けた鞄から財布等の貴重品を抜き取られるもの。

      • 7月5日,在留邦人が,帰宅途中にバスの車内で財布を盗まれた。
      • 7月12日,邦人旅行者が,投宿先のホテルからレストランまでタクシーを利用したところ,降車してからスマートフォンをタクシー内に置き忘れていたことに気づき,戻ったが既にタクシーはいなくなっていた。
      • 8月13日,邦人旅行者が,ホテルから地下鉄5号線及び2号線を利用してコロメンスカヤ駅に到着した際に,背負っていたリュックサックのファスナーが開いていることに気づき,中を調べたところ,財布が盗まれていた。
      • 8月24日,邦人旅行者が,クレムリンからボリショイ劇場付近まで徒歩にて移動したところ,リュックサックのチャックが開いていたため,確認したところ,中に入れていた財布が盗まれていた。
      • 9月4日,在留邦人が,クロポトキンスカヤ駅改札の前でスマートフォンを確認し,上着のポケットに入れていたが,地下鉄の車内で確認したところ,ポケットの中に入っていなかった。
      • 9月11日,邦人旅行者が,宿泊先のホステルから2時間程度外出した隙に,部屋においていたバックの中から現金(13万円及び5万円相当の外貨)及び友人の現金も1万5千円相当の外貨)を抜き取られた。なお,同人らは,イルクーツクでも盗難被害にあっていた。
      • 9月13日,邦人旅行者が,ドモジェドヴォ空港のタクシーカウンター付近でタクシー会社職員と思われる人物にタクシーを頼んだところ,駐車場にて5500ルーブルを請求され支払ったが,後日領収書等は偽造であり,タクシー会社を装ったいわゆる白タクに法外な料金を請求された疑いがあることが判明した。
      • 9月23日,在留邦人が自動車を運転中,別の車に進路をふさがれ車から降りてきたロシア人2名に殴打され,脚部を骨折した。
      • 9月23日,邦人旅行者が,徒歩でチョプルスタン駅近くのショッピングモールに行き,フードコートで財布をバックから出そうとしたが見つからなかった。その後,財布を拾った人からホテルに連絡があったが現金がなくなっていた。
      • 9月25日,邦人旅行者が,ボリショイ劇場からグムデパートまで徒歩で移動する間に,たすき掛けにして背負っていたバックの中から財布を盗まれた。
      • 9月27日,在留邦人が,アフィモール5階エレベータ前のいすに着席し,バックを置いたまま1分程度その場を離れすぐに戻ってきたがバックを何者かに盗まれていた。
      • 9月28日,邦人旅行者が,クレムリン周辺を散策していたところ,地下通路付近でたすき掛けしていたバックのチャックを開けられ,財布を盗まれた。
    5. 【外国人一般犯罪被害】
      • 6月29日,ウズベキスタン出身の男性が,ナイフで脅され携帯電話2台を奪われた。警察の捜査の結果,7月4日にモスクワ市ミクルホ・マクラヤ通りで犯人とみられるウズベキスタン人の男2名が逮捕された。
      • 7月10日,午前2時頃,モスクワ市ニコーリスカヤ通りの地下道で,米国人が2人組に殴打され,財布(在中品:3千ルーブル、60米ドル等)を奪われた。
      • 8月9日13時頃,モスクワ市ベルセネフスカヤ河岸通りのクラブから,頭,胸及び腰などに重度の怪我を負ったイギリス人男性が病院に搬送された。犯罪か事故による被害かは判明していない。なお,直近2日間において,このクラブにおいて喧嘩が発生したとの情報はない。
      • 8月21日22時頃,モスクワ市ダロージナヤ通りに停車中の自動車の車内で44歳のベトナム人が頭と胴体を銃で撃たれ,運転席に座った状態で死亡しているのが発見された。被害者は,モスクワでビジネスをしていた。
      • 8月24日昼,モスクワ市セレズネフスカヤ通り11番付近において,何者かが,イスラエル国籍の法律事務所代表に数発発砲し逃走した。被害者は知人によって病院へ運ばれた。
      • 9月9日,モスクワ市ベロザヴォツカヤ通りのアパートに居住するアメリカ人夫妻が強盗に襲われた。強盗は被害者夫妻の帰宅を待ち伏せて犯行に及んだ。妻は胸や手首を刺され重傷を負い,病院に搬送された。
    6. その他参考となる犯罪被害
      • 7月3日,モスクワ市南部のユーゴザパッドにおいて,タクシー運転手が強盗の容疑で逮捕された。被害者となった35歳の女性店員は,タクシー運転手に行き先を伝え,しばらくタクシーが走行しノボチェリョムシキンスカヤ通りにさしかかったところ,運転手の男は女性が持っていた携帯電話を奪うと,女性を車から押しだし逃走した。
      • 7月8日22時頃,モスクワ市第3パルコーバヤ通りにおいて発砲事件が発生した。同通り沿いに建つアパート2階の住人が,酒に酔った状態で窓から自作の銃を発砲し,通りを歩いていた子供連れの女性の腹に命中した。犯人の住人は,その後,通りへ出てさらに数発空へ向けて発砲した。女性は救急治療室へ搬送された。
      • 7月19日の夜,モスクワ市プロフソユズナヤ通りのアパートに2人組の強盗が押し入り85歳男性の住人とその看護人を銃で脅したうえ,総額1万7500ドル相当のイコン25枚,十字架2個,古銭が入ったアルバム7冊のコレクションを強奪した。
      • 8月1日,モスクワ市カシルスコエ街道において,5人の男らが,日本食レストランチェーン店の配達職員の顔に向けてガススプレーを噴霧し,配達職員が持っていた寿司などの注文品を奪って逃走した。
      • 8月10日正午頃,モスクワ市プロフソユズナヤ通りにおいて,住人が強盗の被害にあった。同通りの建物2階にあるATM機から被害者が56万ルーブルを引き出し1階へ降りたところ,3人の男らが待ち伏せており,被害者を捕まえ手錠で手すりに固定し,現金と携帯電話を奪って逃走した。
      • 8月19日,警察はモスクワで,アフリカ中部出身の男2人を偽ドル紙幣の製造と使用の疑いで逮捕した。被疑者は黒い紙を「魔法」の液体で100米ドル札に変えて両替所で交換することを他人に持ちかけて,その分け前を得ていた。警察は,被疑者が所持していたバッグから,57束のドル札サイズの黒い紙を発見した。
      • 8月21日深夜,モスクワ市警察は自動車運転者に対する一斉取締を実施した。自動車1万台以上について検査を実施し,15丁の銃器の他,バット312本,刃物183本,薬物などを押収した。2500人以上の運転手に対して違法行為が疑われ,この内140人は飲酒運転であり,100人以上が逆走,200人以上が免許証不携帯であった。
      • 8月24日16時頃,モスクワ市ミーラ大通り99番に所在する銀行の両替窓口において,強盗事件が発生した。3人組の強盗は女性行員を刃物で襲い,100万ルーブルを奪って逃走した。
      • 8月30日夜,モスクワ市北部コストヤコヴァ通りで発生した高級外国車放火の容疑で,36歳のモスクワ市民の男を逮捕した。モスクワ市内ではこれまでに,一夜にして20台に上る車輌が放火された他,8月19日,8月12日にも車両が放火される事件が発生していた。
      • 9月4日,モスクワ市ドモジェドヴォ空港の税関当局は,タジキスタン人による違法薬物の持ち込みを阻止した。犯人は,49歳のタジキスタン人で,鞄の中に入れたプラスチック製パネルにヘロイン675.78グラムが入った袋をくくりつけ密輸を試みた。
      • 9月6日,モスクワ市南西部において,警察官に賄賂を渡した容疑で34歳の男が逮捕された。無資格で貨物輸送業に従事していた容疑者の男は,ノヴォヤセネフスキー大通りにおいて行政違反として調書を作成される際,3万ルーブルを担当の警察官に提示し違反をもみ消すよう求めた。賄賂を提示された警察官は,遅滞なくこの事件について同僚へ報告し,事件の証拠物である現金が渡された瞬間,この容疑者を逮捕した。
      • 9月25日,モスクワ市内で若い女性を殺した元警察官2人が逮捕された。逮捕されたのは,モスクワ市警察の南部地区に所属していた元パトロール・立番担当警察官で,被害女性と酒を飲んでいた際に口論となり,拳銃で頭を撃ち殺害した。
  3. テロ・爆弾事件発生状況
    1. 邦人被害なし。
    2. 外国人被害。
      • 8月7日夕方,モスクワ市地下鉄リャザンスキー大通り駅付近において,タジキスタン人神学者が刃物で襲われ,重傷を負った。犯人は複数人であった模様。被害者は,ミーラ大通りに所在するモスクに所属し,しばしばISILの活動を批判していた。タジキスタンの治安機関によると,現在タジキスタン出身者約500人がISILにおいて活動しているとされる。
    3. テロ・爆弾事件(未遂)発生事例
      • 7月24日未明,モスクワ市内クールスキー鉄道駅において,不審物が発見されたことにより,職員及び利用客500人以上が建物外に避難する事態となった。クールスキー鉄道駅においては,当局の捜査が行われた。
      • その後も8月19日には地下鉄ノヴォスラボツカヤ駅,9月5日にはモスクワ市内の主要駅,9月8日には2つの学校,9月13日鉄道駅全て等の対象にした爆発物があるとの脅迫電話があり,検索及び避難が行われた。

      • 8月10日午後4時頃,ダゲスタンのウンツクリスキー地区の山岳森林地帯において特別作戦の結果,スレイマノフ「コーカサス・イスラム首長国」首領を含む計4名の戦闘員が殲滅された。
      • 9月22日17時頃,シェレメチボ国際空港において,シリア―モスクワ便でロシアへ入国したISIL戦闘員とみられる2名(アフメド・アミルハノフ23歳,ケリム・ハチエフ26歳)が拘束された。この2名は,シリアの指揮官からの命令に基づきロシア国内の建物に対するテロ行為の実施を計画していた。この2名は「シリアへ出稼ぎに出たものの,戦闘に参加しなければならない状況へと追いやられた」旨,述べている。
  4. 誘拐・脅迫事件発生状況
    1. 邦人未遂事案
      • 9月30日,在留邦人が子供と幼稚園に向かうためにヤンデックス・タクシーにて配車されたタクシーに乗車,普段なら10数分程度で到着するのに,運転手が国籍と宗教を聞いてきたため答えたところ,急に激高し態度が悪くなりナビゲーションがあるにも係わらずわざと遠回りしたり幼稚園付近に到着してもタクシーをそのまま走らせ人気のないところに連れて行こうとしたため一旦停止した隙にタクシーから下車しことなきを得た。
    2. その他
      • 9月2日夜,モスクワ州内において,モスクワ市警察犯罪捜査局は,身代金目的の誘拐犯6人を逮捕した。犯人は23歳から34歳の中央アジア及び北コーカサス地方出身者であり,空気銃や手錠,大麻などが押収された。犯人の内3人は,8月4日,交通警察の制服を着てモスクワ市の企業家を車に連れ込んで致死量の毒が入っていると錯覚させ注射をした後,解毒のためとして当初2500万ルーブル(その後700万ルーブルに減額)を支払うように要求し,被害者が犯人の要求どおり金銭を支払うと犯人らは「解毒」をして被害者を解放した。
  5. 日本企業の安全に関わる諸問題
    1. 日本企業に対するものではないが,時折,当館に対して領土問題に関する抗議活動が行われることがある。領土問題については,日系企業や団体,在留邦人,邦人旅行者であっても言動等に注意が必要である。
    2. 近年,ロシアでは外国人管理が厳格化されており,軽微な交通違反等であっても複数回違反した場合,入国禁止処分を受けることもあるので,法令違反には注意が必要である。また,不法滞在の処罰も厳格化しており,うっかり気づかず数日間査証が切れても不法滞在として裁判を受ける可能性があるので,日頃から査証の有効期限のチェックが必要となっている。

     

    以上