モスクワ安全対策情報 (2015年4月から6月まで)

  1. 治安・社会情勢(一般治安情勢,政治的安定度,反政府勢力の動き,対日感情の変化)
    1. 一般治安情勢
    2. ロシア内務省の発表によれば,2014年の犯罪件数は全体では減少しているものの,テロ的性質をはらんだ犯罪や過激主義による犯罪,外国人を対象とした犯罪等は増加している。ルーブルの下落により物価が上昇し,市民生活にも影響が出てきている。今後景気後退による一般犯罪の増加や愛国主義の高揚による排外的機運の高まり等に注意していく必要がある。モスクワ市内では2月16日から3月6日まで大規模な不法移民,無許可タクシー,売春,薬物等の犯罪摘発作戦が行われ,その後も集中的に摘発が行われている。

    3. 政治的安定度
    4. 一般国民による反体制抗議運動は,集会法の罰則強化やNPO外国エージェント法採択等により鎮静化しつつあるが,社会の不満は依然として解決されるには至っていない。2013年10月,コーカサス系住民によるスラブ系男性殺人事件に端を発し,民族間の緊張が高まりモスクワ南部で騒乱が発生した。

      2月27日深夜に元第一副首相で現ロシア共和党ー国民自由党の共同党首であったネムツォフ氏が殺害される事件が発生し,3月1日に予定されていた反体制派による集会がネムツォフ氏の追悼集会に変更となった他,5月6日反体制派による無許可集会が行われ,参加者5名が当局に身柄を拘束された。また,5月30日,モスクワ市の中心部において,同性愛者の活動家による無許可の集会・行進が行われ,同性愛者の活動に反対する活動家たちと衝突があり,参加者らが逮捕されていると報じられている。

    5. 反政府勢力の動き
    6. 不安定な北コーカサス情勢を背景にしたテロが引き続き発生している。昨年10月5日にチェチェン共和国グロズヌイ市内の劇場にて自爆テロ事件が発生した他,同年12月4日には同市で武装勢力が警察詰め所を襲撃し,出版会館,学校等に立てこもるテロ襲撃事件が発生し,多数の死傷者がでた。ロシア国内でテロ事件を起こした北コーカサス武装勢力について本年4月反テロ委員会は,リーダーであったアリアスハブ・ケベコフが死亡したことを発表し,その後新たにリーダーが指名されたとの報道もある。

      また,イラクやシリア等で活動しているテロ組織ISILには多数のロシア人等が参加しているといわれており,これらの帰還者によるロシア国内でのテロの懸念が生じている。また,最近,ISILは北コーカサス地方をISILの行政地区とすると一方的に宣言している。

      今後,北コーカサスの武装勢力がプレゼンスを示すことを狙ったテロや,シリア等での戦闘経験を有する帰還者によるテロが発生する懸念もあることから,引き続き警戒が必要であり,特に,ISILは,6月18日から7月16日迄の間のラマダン期間中にテロを呼びかけており,クウェート,チュニジア等で既にテロ事件が発生していることから,無差別テロによる巻き添えのおそれを含めてテロへの警戒が必要となっている。

    7. 対日感情
    8. ロシア国民の対日感情は一般的には良好であるが,過去に北方領土問題などで民族主義者や各種団体が当館に抗議を行ったこともあり,複雑な側面がある。今後,同様の抗議活動が当館や日本関連団体・企業等に対して行われる懸念があり,警戒が必要である。

  2. 一般犯罪・凶悪犯罪の傾向
    1. ロシア内務省は,2014年のロシア連邦内の犯罪情勢について次のとおり発表した。
    2. (ア) 全犯罪の登録件数は,216万6400件(前年比-1.8%)であり,この内172万8600件(前年比-1.9%)が刑事事件として提起された。

      (イ) 上記登録犯罪における摘発率は,88.9%(前年比-0.1%)であった。

      (ウ) 各種犯罪の件数が減少する中,環境犯罪(廃棄物処理,資源・鳥獣・森林保護等に関する犯罪)の登録数(2万5530件・昨年比+3.2%),麻薬取引関連犯罪摘発数(25万3500件・昨年比+9.5%),テロ的性質をはらんだ犯罪登録数(1127件・前年比+70.5%),過激主義による犯罪登録数(1024件・前年比+14.3%)が増加傾向を示した。また,外国人及び無国籍者を対象とした犯罪件数も1万4000件となり,前年比6.1%増加した。

    3. 2014年に発生した,武器が用いられた犯罪は7200件で前年比4.6%減少した。モスクワ市においては,359件の武器を用いた犯罪が発生している。ロシアでは銃器の入手が容易であり,日常的なトラブルにも銃器が持ち出されることもあり,注意を要する。
    4. 【邦人一般犯罪被害】
      • 4月25日,邦人旅行者が,シェレメチェヴォ空港に到着し,鉄道線でベラルースカヤ駅まで移動し,同駅からホテル(イズマイロヴォ地区)までタクシーを利用した。ホテルの駐車場前で降車し,荷物を取り出そうした時に,タクシーが急発進し,そのまま荷物を盗まれた。なお,タクシーは,その後数百メートル進んでから運転手が後部ドアを閉めて走り去った。
      • 5月6日,在留邦人が,チェルムシキ・ショッピングモール内のスポーツショップにて靴を試着していた際に,隣に置いたバックを盗まれた。警察の捜査によると,防犯カメラには邦人が試着中に二人組のロシア人の一人がバックを盗み,大きなバックに隠したことが確認された。
      • 6月11日,在留邦人が,市内のカフェにて友人3人でお茶をしていたところ,知らない間に,背中といすの背もたれの間においていたバックを盗まれた。
      • 6月28日,邦人留学生が,地下鉄ウニベルシチェルト近くのショッピングモールから学生寮へ戻るためバスを利用し,寮近くのバス停で降車したところ,ショルダーバックのチャックが空いていることに気づき,持ち物を確認したところ,財布が盗まれていた。
    5. 【外国人一般犯罪被害】
      • 4月15日夜,モスクワ市北西部ボリショイ・ナベリジノイ通りにおいて,ウズベキスタン人の美容師が身元不明の男性4人にナイフで脅され,120万ルーブルの入ったショルダーバッグを奪われた。犯行後,犯人らは乗用車で逃走した。
      • 5月22日,モスクワ市ペロフスカヤ通り20番において,アフリカ系アメリカ人が銃を突き付けられ,現金,携帯電話とパスポートを奪われた。
      • 6月11日,モスクワ市郊外のソフィノ村の墓地で,ウズベキスタンからの移民らがけんかをし,熊手で突き殺して遺体を同所に埋めた。被害者には多数の刺し傷があった。
      • 6月25日0時40分ころ,モスクワ市ドロジナヤ通りにおいて,ドネツク州出身のウクライナ人(46歳)男性とスラブ系の特徴をした男との間で争いが起こった。この結果,ウクライナ人男性が頭部に外傷を負い,その怪我が原因で死亡した。
    6. その他参考となる犯罪被害
      • 4月16日,モスクワ市警察は,住居侵入窃盗を繰り返していた北カフカス地域出身の男を逮捕した。犯人は,2007年から2010年の間に22件の住居侵入窃盗を犯した後,北カフカス地域に潜伏していたが,最近モスクワへ戻ってきたところを逮捕された。 犯人は主に家主がいない日中を見計らい,合い鍵などの特別の工具を用いて侵入するなど入念な準備の下に犯行に及んでいた。
      • 5月6日深夜,モスクワ市ペステリャ通りの住居において強盗事件が発生した。マスクをした何者かが,住居のドアをノックして住人を呼び出し,住人の男性が出てきたところにスタンガンを押し当てて手錠をかけた上,けん銃で脅し,約1000万ルーブルを奪って逃走した。被害者はタタルスタンからの来訪者(25歳)であった。
      • 5月6日昼,モスクワ市アカデミカ・ホフロヴァ通りとレベデヴァ通りの交差点において,自動車に乗った2人の男がモスクワ大学の敷地内へ許可なく入ろうとしたため,敷地の警備員と口論となった。臨場した警察官が法に則り,この2人に身分証明書の提示を求め,自動車内から出るよう指示したところ,男の内1人がけん銃を出して抵抗し逃走しようとした。このため,警察官は低致死性拳銃を数発発砲し2人を拘束した。本件において,身柄を拘束された1人は銃傷を負い病院へ運ばれており,また,警察官も負傷した。
      • 5月6日,モスクワ市の中心部に住む会社役員の住居から高級腕時計5点が盗まれていることが明らかになった。犯人は,被害者が休暇のために住居を留守にしていた間に犯行に及んだ模様。被害総額は,1285万2千ルーブルであった。
      • 5月19日18時頃,チュソフスキー通りにおいて,覆面をした4人組の強盗が,27歳無職のモスクワ市民を殴った上,被害者の車の窓ガラスを割り現金が入った鞄を奪って逃走した。
      • 6月5日,モスクワ市警察はFSB(連邦保安庁)と共同で,法務省モスクワ局の職員を詐欺の疑いで逮捕した。この職員は,外国人に対し,「ロシアへの入国禁止措置を取り下げる」という話を持ちかけ,現金25万ルーブルを要求していた。捜査の結果,この職員は実際には入国禁止措置を取り下げる権限を持っていないことが判明した。
      • 6月7日,モスクワ市の地下鉄「プラネルナヤ」駅の近くで,バルナウール市出身の24歳の男性がタクシー運転手から薬物のようなものを飲まされ,所持していたバイオリン,現金1万ルーブル及びモバイルコンピュータを奪われた。本件の手口は,被害者がタクシーに乗ったところ,タクシーの運転手から「いとこの誕生日だから一緒にビールを飲まないか。」と言われ,薬物が入ったビールを飲まされた模様。被害者はビールを飲んだ後,意識を失った。
      • 6月22日午後,モスクワ市レーニンスキー大通り148番地付近で,黒色の車両(SUV車)に乗った者が,カフェから出てきた男性に向け,けん銃数発を発砲した。被害者は頭と背中を撃たれ死亡した。
      • 6月28日,モスクワ市警察は,パスポート等を偽造していた犯罪者グループを摘発した。犯人は,68歳と23歳のグルジア人,23歳のウズベキスタン人であった。ロシア連邦のパスポートやソ連パスポート,ロシアの出入国スタンプ,ホログラム等が押収された。
  3. テロ・爆弾事件発生状況
    1. 邦人被害はなし。
    2. 外国人被害はなし。
    3. テロ・爆弾事件(未遂)発生事例
      • 5月26日及び6月5日クールスキー鉄道駅,6月15日地下鉄プレオブラジェーンスカヤ広場駅,6月23日リオの店舗(同月27日にも同様)及び第9小児病院宛に,爆発物をしかけたとの脅迫電があり,避難及び検索等が行われたが,爆発物は確認されなかった。
      • 6月25日,モスクワ州ヒムキ所在のダムの水門の蓋の下に,爆発物とみられる不審物が仕掛けられているのを作業員が発見した。特務機関により爆発は阻止され,不審物は鑑定に送られた。
  4. 誘拐・脅迫事件発生状況
    • 5月27日深夜,モスクワ市アルトゥフィエフスコエ街道97番地において,誘拐事件が発生した。2人組の男が被害者の男性に対して暴力を振るい強引に車に押し込み,連れ去ろうとした。被害者の男性は,車の中に押し込められた際に,なんとか車から飛び降り,逃げることができたが,その後,犯人から被害者に対して電話があり,直接会って金を払うように要求された。被害者は,犯人からの電話の後,警察へ事件を通報したため,犯人が現れる場所に警察職員が待機しており,犯人2名が逮捕された。なお逮捕の際,犯人らは警察に抵抗して銃器を使用したため,警察も銃器で犯人らに応戦し,犯人2名のうち1名が重傷を負った。
    • 6月24日12時30分,「弁護士が連れ去られた。」旨警備員が警察に通報した。同弁護士は自身の車から引きずり出され,犯人の車に押し込められて連れ去られた。現在,同弁護士とは連絡を取ることができず,警察による捜索が進められている。
    • 6月27日,モスクワ市北東部のズビョズニー並木道4番地付近において,何者かが男性を車に押し込み連れ去った。
  5. 日本企業の安全に関わる諸問題
    1. 日本企業に対するものではないが,時折,当館に対して領土問題に関する抗議活動が行われることがある。領土問題については,日系企業や団体,在留邦人,邦人旅行者であっても言動等に注意が必要である。
    2. 近年,ロシアでは外国人管理が厳格化されており,軽微な交通違反等であっても複数回違反した場合,入国禁止処分を受けることもあるので,法令違反には注意が必要である。また,不法滞在の処罰も厳格化しており,うっかり気づかず数日間査証が切れても不法滞在として裁判を受ける可能性があるので,日頃から査証の有効期限のチェックが必要となっている。

     

    以上