モスクワ安全対策情報(2014年7月から9月)
2014年7月から9月までの当地治安関連情報
(1)一般国民による反体制抗議運動は,集会法の罰則強化やNPO外国エージェント法採択等の締め付け策により鎮静化しつつあるが,社会の不満は依然として解決されるには至っていないといわれている。昨年10月,コーカサス系住民によるスラブ系男性殺人事件に端を発し,民族間の緊張が高まりモスクワ南部で騒乱が発生した他,その後も当局による不法移民取り締まりが強化され,多数の不法移民が摘発されている。 (2)現下のウクライナ情勢に伴い,ロシア国内で治安上の懸念を示す兆候は現時点ではない。他方,今後一般犯罪の増加,ウクライナに隣接する地域の不安定化,愛国主義の高揚による排外的機運の高まり等を注視していく必要がある。なお,モスクワ市内において,ウクライナ情勢に関する反戦集会が断続的に開催されている。 (3)ロシア国民の対日感情は一般的には良好であるが,反面,北方領土問題などで民族主義者や各種団体が当館に抗議することもあり,複雑な側面がある。 昨年6月19日,「もう一つのロシア」構成員を名乗る若者約10名が大使館前でビラ配布を行う等の抗議活動を展開し,4名が逮捕される事件が発生した。今後,同様の抗議活動が当館や日本関連団体・企業等に対して行われる懸念があり,警戒が必要である。なお,本年1月31日,モスクワ市トリウムファーリナヤ広場において,爆竹及び発煙筒を用いて騒ぎを起こした25名が警察に拘束され,この中には「もう一つのロシア」の指導者が含まれていたと報道された。また,6月16日,在ロシア・ウクライナ大使館において「もう一つのロシア」構成員4名が同館敷地内へ発煙筒を投擲し,侵入を試みたが,その場で身柄を拘束された旨報じられた。> (4)不安定な北コーカサス情勢を背景にしたテロが引き続き頻発している。従前,テロが頻発してきたダゲスタン共和国に加えて,ボルゴグラードで昨年10月に,路線バスを標的とした自爆テロ事件,また,同年12月には連続して鉄道駅及びトロリーバスを標的とした自爆テロが発生した。 今年4月,ロシア治安当局は,テロ事件を主導したとされるドク・ウマロフの死亡を確認したと発表したが,これと前後して,北コーカサス武装勢力は新たなリーダーが指名されたと発表するなど武装勢力側に変化が生じている。また,イラクやシリアで勢力を急速に拡大しているISILはロシアからも多数のチェチェン系ロシア人等が参加しているといわれており,これらの帰還者によるテロの懸念が生じている。今後,北コーカサスの新勢力がプレゼンスを示すことを狙ったテロや,シリア等からの戦闘経験を有する帰還者によるテロが発生する懸念もあり,引き続き警戒が必要である。
(1)(ア)7月24日,モスクワ市内務総局は,2014年上半期における犯罪について次のとおり総括した。 ●2014年上半期,重要犯罪及び特別重要犯罪は4.5パーセント減少しており,殺人10パーセント,傷害22パーセント,窃盗22パーセント,強盗26パーセント,住居侵入窃盗15パーセント,それぞれ減少した。また,犯罪事件による死亡者は7パーセントの減少であった。 ●犯罪者の摘発数は,約4パーセントの増加であり,この値には殺人事件の容疑者の摘発10パーセント増,傷害致死容疑者の摘発16パーセント増を含んでいる。 犯罪組織や犯罪者集団の構成員による犯罪件数は5割増であった。治安機関の捜査から逃れていた1,000人を超える容疑者を拘束しており,この数字は,昨年同時期の39パーセントから45パーセントへと増加している。未成年者による犯罪件数は12パーセントの減少であった。 ●今期,露当局は,違法薬物や違法なカジノに対する取締りを強化した。また,不法移民対策も継続し,移民関連法に違反した1万1818人を摘発し,958件の刑事事件を提起した。その他,この期間中に,警察官が携帯するけん銃を使用した事件が37件発生したが,いずれも適法な行為であった。 (イ)近年モスクワ市においては,地方都市出身者及び外国人の銃器の所持率が増加しており,銃器を用いた犯罪も増加している。現在,モスクワ市内では約40万人が60万丁を超える銃器等を所持しているとされており,日常のトラブルにも銃器が持ち出されることもあり,注意を要する。
(2)【邦人被害】 ●7月2日深夜,モスクワ市の地下鉄サヴョロフスカヤ駅近くの路上において,在留邦人が帰宅するためタクシー(無許可タクシー)に乗車したところ,別の男が突然タクシーに乗り込んできて,ナイフで脅し,邦人が所持していた銀行のキャッシュカードを使って多額の現金を引き出し,その金を持ち去った。 ●7月5日17時頃,モスクワ市内の地下鉄サハロフスカヤ駅近くにある喫茶店で在留邦人が休憩中に,自席の隣の椅子に置いていた旅券などの貴重品が入った鞄を置き引きされた。 ●7月26日13時頃,モスクワ郊外のセルギエフ・ポサード市内のレストランにて,邦人旅行者が食事をしていた際に,いすの背もたれに置いていたバックを置き引きされた。 ●8月2日16時頃,在留邦人が長期の旅行をしてモスクワに戻ってきたところ,自宅近辺の路上(地下鉄ウニヴェルシチェト駅付近)に停車していた車のフロントガラスが割られていた。 ●8月9日13時頃,在留邦人が,ナガチンスカヤ通りの路上に車を停車し,道沿いにある店に買い物に行き,5分ほどして戻ったら,窓ガラスが割られて,車内に放置していたバックが盗まれた。 ●8月9日22時頃,在留邦人が,酒に酔ってモスクワ市の地下鉄パベレツカヤ駅近くの路上で休憩していたところ,2人の男(非スラブ系)が話しかけてきたので応答した隙に、スカーフを身にまとった女が邦人のバックを置き引きした。これに気づいた邦人が犯人を追いかけたところ,2人の男が邦人を数発殴り,邦人は負傷した。 ●8月14日16時頃,邦人旅行者が,モスクワ市のクレムリンからノヴォスラボーツカヤ駅に向かうため地下鉄を利用したところ,エスカレーターでバックに入れていた旅券を盗まれた。 ●8月31日午前8時頃,在留邦人が,カルーガ州内のサッカーグランドの中央付近に貴重品等が入った袋を置き、グランドを走っていたが気づいたら袋が盗まれていた。 ●9月15日午前12時頃,邦人留学生が,モスクワ市内のスーパーマーケットで買い物をしていたところ,ポケットに入れていた携帯電話を盗まれた。 ●9月22日,邦人旅行者がサンクトペテルブルクからモスクワまで寝台列車で移動した際に,枕の下に財布を入れていたが,気づいた時には財布を盗まれた。 ●9月25日午前11時頃,在留邦人が,モスクワ市内で車を運転中,交差点で左折しようとした際に右側の車が左折しようとして幅寄せしてきたので仕方なく対向車線にはみ出したところで交通警察に呼び止められ,その場で金銭を要求された。 (注:交通警察はその場で金銭を要求してはいけないことになっている) ●9月28日18時頃,在留邦人が,モスクワ市内で自動車を運転中に横断歩道付近で前方の車を追い越そうとしたところ,交通警察官に拘束され,金銭を要求された。 (注:同上) ●9月29日19時30分,邦人旅行者が,モスクワ市内の新アルバート通り沿いの両替所にて現金688ドルをルーブルに両替したところ,100ドル相当のルーブル紙幣を抜かれていた。
(3)【外国人被害】 ●7月30日昼,モスクワ市ベールフニエ・ポリャ通りにおいて,自動車に乗っていた中国人が強盗の被害にあった。犯人らは,車両のタイヤをパンクさせ,ハンマーやけん銃のような武器で被害者を脅し,800万ルーブルを奪って逃走した。 ●8月15日16時頃,モスクワ市チャギンスカヤ通りにおいて,アゼルバイジャン出身の31歳の男性が自動車で信号待ちをしていたところ,近づいてきた車両から4人が出てきて,被害者の車両の窓ガラスを割った上,被害者をけん銃のような凶器で脅し,900万ルーブルを奪って逃走した ●8月18日8時半頃,アルメニア出身の男(43歳)が,モスクワ市第7ロストフスキー横丁にある在モスクワ・トルコ大使館の建物に掲げられているトルコの国章に対して,猟銃2発を発砲した。事件直後,警察はこの者の身柄を拘束した。 ●8月29日,モスクワ市ミクルホ・マクラヤ通り41番において,ウズベキスタン出身の女性が,所持していた13万5,000ルーブル入りのかばんを奪われた。犯人は,かばんを奪い逃走する際に,被害者の知人に対し暴行を加えている。その後,警察は,クリミア出身の41歳男を容疑者として逮捕した。 ●9月16日,アストラハン州内でBBC取材班が車で移動中,複数の暴漢が車両に乗り込みカメラマンが殴打されるとともに機材等を強奪された。 ●9月18日18時37分頃,モスクワ市内にあるショッピングセンター『モスクワ』において,2人組の男らが店員のベトナム人男性を殴り逃走した。周囲にいた目撃者が犯人2名を取り押さえようとした際,犯人の1名がけん銃を発砲し,目撃者に対してもけがを負わせた。犯人らは,車両で逃走したが,逃走に使用された車両はモスクワ市内で発見された。 ●9月21日深夜,モスクワ市シレネヴィ並木道25番にあるレストランにおいて,口論が発生し,その後,ダゲスタン出身の20歳の男が,何者かにけん銃で腹を撃たれた。被害者の男性は,病院へ搬送される途中で死亡した。
(4)【その他参考となる事案】 ●7月2日,麻薬流通監督庁モスクワ支局は,タジキスタン出身の2名を違法薬物の売買に関与したとして拘束した。この2名は,ヘロインを粉末状にし,砂糖に混ぜ合わせたものを梱包し販売していた。身柄拘束時,両名は1.3キログラムのヘロインを所持しており,自宅には5キログラムの違法薬物が保管されていた。 ●7月10日,モスクワ市南東部において,無許可によるタクシー行為をしたとして,運転手11名が拘束された。この運転手らは,中央アジア出身の23歳から42歳の者らであった。 ●7月13日昼,モスクワ市ゲネラル・アントノフ通りにあるアパートの一室において窃盗事件が発生した。同アパートに住む73歳の女性が帰宅したところ,室内が荒らされており,貴金属類がなくなっていることに気付き事件が発覚した。本件の犯人については,翌14日15時頃,ノボチェレムシキンスカヤ通りにある質店近くで身柄を拘束されており,捜査の結果,モスクワ市出身の29歳の男であることが判明した。過去,犯人は被害者宅を水道管点検の業者として訪問していた。 ●7月18日未明,モスクワ市マーリィ・ウリヤノヴォイ通り3番付近において,警察官の停止命令に従わず車両が逃走する事件が発生した。警察官は警告射撃をし,逃走車両に対し停止を促したものの,同車両は停車せず逃走を続けたため,警察官は逃走車両に向けて3発けん銃を発砲したが逃走し続けた。その後,レーニンスキー大通り88番付近において,警察は同車両を停車させ,運転手の身柄を拘束した。運転手は,モスクワ市出身の20歳の男であり,同車両からは,何らかの植物から作られた物質が発見された。 ●7月29日,モスクワ市バルダイスカヤ通りに駐車していた車両が盗難被害にあった。翌30日,第3マリーナ・ロ-シャ通りにあるアパートの近くで被害にあった車両が発見され,犯人としてアルメニア人の男が身柄を拘束された。この男は,現在明らかになっているだけでも,本件以外に3件の自動車の窃盗行為を行っていた。 ●7月30日,モスクワ市裁判所は,イスラム過激派組織『ヒズブ・タフリール・アル・イスラム』の構成員のアジズベク・イナモフ(37歳),シャミリ・イスマイロフ(40歳),サイプラ・クルバノフ(34歳),ジクルロホン・ラハモンホジャエフ(38歳)をロシア政府に対する暴力的行為やロシアの国家体制に対する暴力的変更(クーデター)を企図し,武器や人材を手配して同組織の活動に関与した等として有罪判決を下した。 ●8月4日昼,モスクワの学生グループが『アメリカの民主主義』という文字が書かれ耳をふさいだ人形(アメリカはウクライナの現状を無視しているとの批判を込めたもの)を,在ロシア米国大使館領事部門が入居している建物の柵へ立てかけるパフォーマンスを行ったが,人形については警察官がすぐに撤去した。 ●8月25日1時頃,モスクワ市レニングラツキー大通り44番付近において,印刷関係の学校に通う学生が強盗の被害にあった。強盗犯は,自転車に乗って被害者に近づき,けん銃のような凶器で被害者を脅し,スマートフォンを奪って逃走した。 ●9月3日,内務省とモスクワ市刑事犯罪捜査部は,ロシアにおいて偽造旅券等を取引していた犯罪組織の構成員をモスクワ州ヤセネヴォ地区で逮捕した。捜査担当者によると,逮捕された者のは,中央アジア出身であり,自らをタジキスタンで活動をする非合法なイスラム過激組織『ウズベキスタン・イスラム運動』のメンバーであると供述している。今回の捜査では,ロシアの国内旅券200点以上,ロシアの国外旅券15点以上及びロシア以外の国の旅券40点以上が押収された。押収された偽造旅券は精巧に作成されたものであった。 ●9月9日23時58分,モスクワ市プロフサユーズナヤ通り58番4付近において,『フルクトーヴィ・ライ』という商店の経営者が何者かにより銃殺された。犯人は被害者に対して銃器を数発発砲したのち逃走している。 ●9月10日2時30分頃,モスクワ市マルシャラ・チュイコヴァ通りにあるクズミンキ公園の入口付近で女性が強盗の被害にあった。2人組の男が女性に対しスプレーガスを吹きつけ,女性がひるんだ隙に200万ルーブルが入ったかばんを奪って逃走した。
(1)邦人被害はなし。 (2)外国人被害はなし。 (3)テロ・爆弾事件発生事例 ●7月29日,ドモジェドヴォ空港に『ターミナルBを爆破する。』という予告電話があった。警察が爆発物探知犬等による捜索を実施したが,空港は通常通り運営されていた。 なお,この爆破予告があった時間帯に,サンクトペテルブルグのプルコヴォ空港にも爆破予告があり,ターミナルから乗客や職員が避難したが爆発物は発見されなかった。 ●8月8日早朝,ダゲスタン共和国のマハチカラ市内において,市交通警察幹部が自宅近くで何者かに射殺された。 ●8月15日,モスクワ市ヴァヤトスカヤ通りに住む者から警察に対し,「爆発物が仕掛けられている。」という通報があった。住人を屋外へ避難させ検索等を実施した結果,警察は建物内から防護容器に入れられたものを運び出したが,この運び出されたものについて,具体的な発表されていない。 ●8月16日深夜未明,北オセチア共和国のウラジカフカスのモスクで,イスラム教指導者が何者かにより待ち伏せされ,射殺された。 ●8月25日,モスクワ市内の鉄道駅クールスキー駅構内に爆弾を仕掛けたとの匿名の電話が入った。通報を受けた警察は,建物内から客や職員等約600人を避難させ,検索を実施した。 ●9月4日,モスクワ市郊外にあるブヌコヴォ空港の公式ホームページに匿名の者から『空港内に爆発物を仕掛けた。』というメッセージが送られた。警察は,同空港内にあるターミナル3棟の検索を行ったが,爆発物は見当たらなかった。検索を実施した際,一時的に職員及び客350人が避難したが,航空機の発着に混乱はなかった。 ●9月10日,モスクワ市において,元イスラム過激派のメンバーとみられる者が逮捕された。逮捕された者は,2013年末から2014年初めにかけて,シリアにおいて過激派のメンバーとして戦闘に参加していたとみられている。 ●9月10日夜,モスクワ市中心部のモホバヤ通りにあるホテル『ナツィオナーリ』に爆弾を仕掛けたという匿名の電話があった。この電話を受け,警察が建物内の検索を実施した。 ●9月21日,イングーシ共和国内カラブラクにて,当局と武装集団との間で銃撃戦があり,二人が死亡した。 ●9月23日11時15分,モスクワ市中心部にある『グム百貨店』に対し,電話による爆破予告があり,客及び店員等500人が一時的に避難した。
●7月31日16時30分頃,モスクワ市マリンスキーパーク通りにおいて,走行中の車両から,突然女性が飛び降り,女性が乗っていた車両は,さらに走行を続けた後,付近に駐車していた車両に追突して停車した。現場に居合わせた警察官が,車両の運転手の身柄を拘束し事情聴取したところ,この運転手は,同日13時30分頃,スタヴロポリスキー大通りにおいて,発生した強盗事件の犯人の1人であり,強盗事件の被害者である女性を連れ去ろうとしている状況であったことが判明した。
日本企業に対するものではないが,領土問題に関して昨年以降当館に対する抗議活動が行われている。当館ばかりでなく,日系企業や団体,在留邦人,邦人旅行者についても注意が必要である。なお,昨年10月から外国人管理が厳格化されており,軽微な交通違反等であっても複数回違反した場合,入国禁止処分を受けることもあるので,法令違反には注意が必要である。 (了)
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