日露武道交流年

平成26年12月28日

2014年度日露青年交流事業 短期招聘事業
ニジニ・ノヴゴロド武道会グループ

2014年5月15日~21日にかけて,日露武道交流年を記念して,ニジニ・ノヴゴロドの若手武道家の一団が訪日しました。一行は,居合道の達人である江坂先生の稽古に参加し,柔道の稽古を参観などしました。


Exchange program with Nizhny Novgorod

 

この事業は,正統正流無雙直傳英信流居合道国際連盟,ニジニ・ノヴゴロドの「日本武道会」日本文化・武道センター,日露青年交流センターにより,日露青年交流事業の一環として実施されました。

参加者の一人,プガチョーワ・オクサナさんが感想文を書いてくれましたので,以下ご紹介します。


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5月15日


成田空港。ニジニ・ノヴゴロド武道会グループは日本に到着した。メンバーは極度の興奮状態で,皆を集めるのは一苦労だった。飛行機を出たのはほとんど最後だったが,その代わり列に並ばずに済み,問題なく入国手続を済ませ,荷物を受け取った。ユニフォームのTシャツを着て,旗を掲げて出ると,日露青年交流センターの方々がすでに待ってくださっていた。バスに乗る。菅原さんと酒井さんは自己紹介の後,オリエンテーションをしてくださった。ホテルに到着後,昼食を食べ,都内視察(東京タワー)に出かけた。エレベーターに乗って上へと上へと昇っていく。人がアリに見えるほどの高さだ。多くの高層ビルより高い所にいるようだ。雲や夕霞が高層ビルに引っかかるのが見える。とても綺麗! さて,ホテルに戻る時間だ。明日は稽古の初日なのだ!


5月16日


今日はいろいろあった。
まずは日本美術刀剣保存協会を訪問し,刀剣の作り方を紹介していただいた。アレクサンドル・ヴィクトロヴィチ(注:ニジニ・ノヴゴロド武道会センター所長で,今時訪問団の引率者)はさらに色々と解説した。居合道家にとって,刀の作り方を知っておくのはとても大切なことだ。この知識は,刀を鞘に収める動作,身を守る動作を理解するのに役立つのだ。脆さとしなやかさ,柔らかさと硬さ。真剣は対立する概念を包含した芸術作品であり,正義のために戦う道具でもある。真剣はその作者,持ち主,時代を反映するもので,美麗かつ危険なものだ。
昼食をとる前に浅草を散策した。東京の伝統的な町の一つである。雷門を通り,仲見世通りに沿って,聖観音宗の寺である浅草寺まで歩いた。東京最古の寺である。お願い事をし,おみくじを引き,てんぷらを食べに行った。
夕方,江坂道場に着いた。先生方がこんなに多く出席し,私たち一人一人を直に指導してくださるとは思ってもみなかった。稽古は素晴らしかった! すでに習っていることを修正し,新しいことを学ぶことができた。先生方は非常に気を配ってくださった! 先生方はデモンストレーションまで用意してくださった! 私たちにはまだまだとてもできない型をいろいろと見せてくださった! 私たちは口をあんぐりと開けて,先生方の動作を見守ったのだった。


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5月17日


山梨県甲府市に行ってきた。天気がよく,富士山を見ることができた。富士山は大きく,輝いていた!
午後は武田神社で奉納演武会があった。全員がとても緊張していた。アレクサンドル・ヴィクトロヴィチも緊張していた。八段の後の出番だったからである。私たちはただ立って観ていれば良いだけだったが,私たちの先生の演武はとても大事だからやはり緊張していた。女子たちはまた,着物を着ることを心配していた。着物を着る経験がほとんどなかったからである。浅宮先生はとてもきれいに着付けをしてくださり,それぞれに違うやり方で帯を結んでくださった。しかし,私たちは正しく歩き,座り,振舞わなければならなかった。演武会が始まった。かなり長く続いたが,私にとっては一瞬のようだった。これほど素晴らしい芸術を未だかつて見たことがない。空気は刀で斬り裂かれ,聖なる刀は歌い,心臓はバクバクした。アレクサンドル・ヴィクトロヴィチの出番だ。先生としては今までで一番上手な演武だったと思う。先生はできることを尽くし,それ以上のことをしたと思う。最大限の集中力と,あくまでも自然な動作がそこにあった。最後の出番は江坂先生だった。好きな音楽を聴いたときのように,江坂先生の演武には誰もが感動した。先生は刀,空気と一体だった。この上なく調和のとれた妙技だった。先生の見せてくださったことはなかなか説明できないものがあり,思い出しただけでも感動する。
    その後は,日本人剣士との歓迎懇親会。信じられないことだ。先生方は私たちと話し,ご自分のこと,ご自分の経験を語ってくださる。私たちのことを褒めさえしてくださった。私たちは嬉しくて目や顔が輝いていた。食事中でも多くのことを知り,学ぶことができた。日露青年交流センター事務局長の渡邉さん,江坂先生,サーシャさんの言葉は心に残った。今回の旅行の重要性,意義を実感した。私たちが修めているものは何なのか,その土台に何があるか認識することができた。親切,信用,誠実。これらの言葉は心に刻み込まれた。
一日の締めくくりは温泉だった。心身の緊張や疲れが取れる,素晴らしい場所だ。


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5月18日


今日は休みの日。山梨県内を視察した。武田信玄は武将であり,甲斐国主であった。甲斐とは現在の山梨県である。日本人は武田信玄を日本歴史有数の武将としている。私たちはもう一度武田神社を訪れ,境内を見学した。


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その後,勝沼ワイナリーに向かい,オーナーに日本のワイン製造の特徴を紹介していただいた。白も赤も,いろいろな種類のブドウのワインがあり,試飲もできた。とても楽しく,美味しかった!


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次は河口湖に向かった。車窓からの景色に見とれた。富士山がずっと見えていたが,とても美しかった! 雪に覆われてまぶしく誇らしげな頂上は,陽光を浴びて輝いていた。いつまで眺めても飽きない光景だった!


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夜は渋谷を散策した。こんなに大勢の人が一か所にいるところを未だかつて見たことがない! 東京の心臓から血液が血管を通って方々に走っているようだ! 私たちは小さなグループに分かれ,決まった時間にハチ公前で落ち合う約束をして,好きな方向に行ってみた。ぶらぶら散歩し,いろいろな商店を覘いてみた。ふぐ料理を出す店の前まで行ったが,食べてみるのは怖くなった。本屋にも寄ってみた! 時間になると,皆と落ち合い,ホテルに向かった。日本の地下鉄はまるでクモの巣のようで,すぐに道に迷ってしまいそう!国営の線もあれば,民営の線もある。地下鉄のほかにも地上を走る電車もある!でも,詳しく説明していただいたので,道に迷うことなくホテルに戻ることができた!


5月19日


今日は日本文化体験の日だった。鎌倉の建長寺で座禅を体験してみた。座禅の真髄は,自分自身に負けないことである。誰でも自分に甘くなりがちなので,自分自身に立ち向かうとはとても難しいことだ。私たちはまさにそのことを教えられた。精神を集中させると同時に身体の力を抜くことが大切である。正しい座禅を組んでいれば,隣の人,見守る禅僧など他の人が気にならない。精神の集中を失ったら,禅僧はそれを取り戻すよう助けてくれる。正しい座禅を組んでいるときはどこかに落ちていくような感覚になる。それぞれがそれぞれの世界に落ちていくのだ。私は古い時代に移った。同じ寺にいるのだが,観光客,写真を撮る音やフラッシュなどは何もない。自分のほかには誰もおらず,涼しい風が肺を満たし,血管を通って心臓に向かい,縛られている内面を自由にしてくれる。自分自身との対話が始まる。とても難しい瞑想だ。私達は1時間くらい座禅を組んで疲れてしまったが,禅僧は20時間くらい座禅を組むことがあるという。


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その後,大仏を見学した。大仏はとても大きい! 地上から眺めた時に均整が取れているように見えるように,実際には均整の取れていない構造になっているそうである。
午後は講道館を訪問して稽古を参観し,資料館を見学した。柔道をしているメンバーにとって,素晴らしい経験となった。


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5月20日


    木更津の厳心館道場での合同稽古セミナーの日。道は時間がかかった。東京湾アクアラインで行った。水面の上と下を走る,驚くべき道路だ。アクアライン上に海ほたるパーキングエリアがあり,展望台のようになっている。潮風が髪を乱し,街には靄がかかり,周囲では波が音を立てている!


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    小原先生の道場での稽古。心からの歓待を受けた。着付けは浅宮先生が手伝ってくださった。袴に帯を結ぶ新しい方法を教えてくださり,女子の体型でもきちんとはけるようになった。道場の床は節のない木でできていて驚いた。この床の上で稽古するのはとても楽しかった。女子を指導してくださったのは浅宮先生。通訳のアレクサンドルさん,酒井さんの助けを得て,腕を磨くことができた。また,持麾(もちざい)先生と江坂先生が私たちに多くの時間を割いてくださった。先生方はとても詳しい,かつ分かりやすい説明をしてくださり,稽古の最後にはお褒めにあずかることができた。


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5月21日


日本での最後の日。早稲田大学を見学した。美しい建築物,巨大な図書館,素晴らしい学食! また,構内の日本庭園や,ビル・クリントン,ユーリー・ガガーリン等のVIP来賓が泊まった部屋に通じる廊下を見せていただいた。
学食で昼食をとった後,日本伝統文化プログラムがあり,茶室で茶道を体験してみた。茶室の女性の着物姿は素晴らしかった。お茶は特殊な粉末を使い,泡立っていた。味は苦いが,和菓子と一緒に飲むと素晴らしいハーモニーになる。
午後は関根先生の池ノ上道場で最後の稽古があった。稽古はとても有意義だった。名島先生と持麾先生は二人で攻防の型を見せてくださった。それは初めて見るもので物珍しかったが,とても美しく,楽しかった! 稽古の後,居合道の起源についての講義があった。居合道の起源や具体的な動作の理由などがよりよく分かった。持麾先生はとても分かりやすく説明し,質問に答えてくださった。また,関根先生には古い刀剣や甲冑のコレクションを見せていただいた。


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最後の日は悲しい日。別れの時が来た。心に満ちた思いを言い表すのはなかなか難しい。関根先生は一曲奏でてくださった。この一曲は私たちの思いを表現しているようで,心に響いた。今回の旅行で得たことを大切にし,先生方のご期待に沿うよう,これからも一層頑張ります。ありがとうございました!

サヨナラ,東京!!!