メタクサ国立東洋美術館館長顧問及びシシキナ同極東アジア芸術課上級研究員への叙勲伝達式における上月大使挨拶

令和3年6月9日
親愛なるメタクサ館長顧問、
シシキナ上級研究員、
ご参加の皆様、
 
メタクサさんとシシキナさんが、天皇陛下より叙勲を受けられたことに対して、本日お集りの皆様とともに心よりお祝い申し上げます。
 
メタクサさんは約50年、シシキナさんは約40年にわたり東洋美術館で勤務してきました。そして、お二人それぞれが、日本文化・芸術に高い関心を示され、様々な形で文化分野での日露交流を促進してきました。本日は、お二人の功績をそれぞれご紹介したいと思います。
 
まずは、メタクサさんの功績についてです。
 
メタクサさんは、1997年から2019年にわたり第一副館長として多くの展示会の開催に貢献してくれました。その中でも、特に特記したいのは次の二点です。
 
第一に、明治天皇からロシア皇帝・ニコライ二世に贈呈された「象牙の鷲」に関する功績です。1896年、ニコライ二世の戴冠式に合わせて、明治天皇から贈呈されたのが「象牙の鷲」です。文字通り、象牙からできた鷲の工芸品であり、1,500以上の細かい細工が施されています。当時の日本工芸のなかで最高級の贈呈品でした。この「象牙の鷲」は、東洋美術館に保存されていましたが、重要な美術品であることを理由に、長年にわたり非公開とされてきました。しかし、メタクサさんは、日露の友好を象徴する歴史的価値のある美術品だからこそ、公開が必要であるとして、公開の可能性を追求してきました。メタクサさんの思いを受けて、日本外務省としてもガラスケースの供与を決定しました。そして、安全な展示方法が確保されたことを受けて、2006年にようやく展示が実現しました。それ以来、多くのロシア人、そして日本人が、日露両国の交流の重要な一面に触れることができるようになりました。
 
第二に、「首藤コレクション」に関する貢献です。ご存じのとおり、東洋美術館には、首藤コレクションと呼ばれる書画・骨董・浮世絵・陶磁器が保存されています。大連商工会議所会頭を務めた首藤氏が、終戦直後に大陸に取り残された多くの日本人の命を救うために、満州にいるソ連軍と食料と引き替えるために自らの561点のコレクションを渡したものです。1975年には、当時のブレジネフ書記長から三木総理に対し、日露友好の証として、その一部が寄贈されています。
こうした、首藤コレクションを通した日露友好親善に、メタクサさんは多大な貢献をしてきました。2002年に首藤氏の故郷・大分県から代表団が美術館を訪問した際には、メタクサさんが美術館を代表して迎え入れてくれました。この際、メタクサさんが修復などが難しいと訴え、文部科学省は専門家を派遣して支援しました。また、2018年にモスクワで開催された回顧展では、メタクサさんのご尽力もあり、来場者は8千人を記憶しました。自分も観覧しましたが、感動しました。
 
次に、シシキナさんの貢献についてです。
 
シシキナさんは、ロシアにおける日本美術の専門家の第一人者として、ロシアでの日本美術の浸透に貢献してくれました。その功績を3つの観点からご紹介したいと思います。
 
第一に、展示会の実施を通じた功績です。シシキナさんは、、着物などの伝統美術から、グラフィックデザインなどの現代美術など、幅広い日本文化や芸術を展示会で紹介されてきました。特に、2017年、着物の留め具などに使われる日本の伝統工芸品である根付の展示を実施する際には、CIS諸国の根付コレクターと調整し、東洋美術館のコレクションと組み合わせて、充実した展示会を実現されたと聞いています。
 
第二に、論文の執筆や講演会の実施を通じた貢献です。シシキナさんは、『現代日本の絵画と書道』や『勝川春章が描く絶世の美女』など、100件を超える日本文化・芸術に関する論文を執筆してきました。また、展示会の開催を記念した講義会やテレビで日本文化に関する講演を行ってきました。特に印象的なのは、2018年に日露交流年の枠内においてプーシキン記念国立造形美術館で開催された「江戸絵画名品展」の開催に合わせた特別講演です。同展示会は、プーシキン美術館はもちろんのこと、日本から運ばれた美術品や東洋美術館が所蔵する美術品が組み合わされて、大変好評を博しました。展示品そのものに見応えがありましたが、シシキナさんの講演により、作品の背景や奥深さがさらに伝わったと思います。
 
第三に、日本美術研究の発展への貢献です。日本文化の研究のために、シシキナさんはこれまで何度も訪日し、日本美術についての知見を常に高めてこられました。また、ロシアに帰国後は、後身の育成やロシアにおける日本美術研究の発展のために、研究結果を紹介する取り組みを行ってきました。
 
東洋美術館は、1918年に創設され、2018年に100周年を迎えました。東洋美術を扱うロシア最大の美術館として、同美術館には100カ国以上の国の美術品約15万点が所蔵されています。このような豊富なコレクションがある中で、展示会、日本映画の上映会、研究活動など、頻繁に日本文化を取り上げ、日本文化の普及に貢献してくれました。この場をお借りして、こうした活動を支えてくれている、東洋美術館の関係者の皆様に感謝を申し上げます。
 
最後に、日露文化交流の発展と相互理解の深化に貢献された両名の功績に、改めて敬意と祝意を表すとともに、東洋美術館の益々の発展と、両名の一層のご活躍、そしてそれが日露文化交流の更なる深化を促すことを期待して、祝辞とさせていただきます。